『ザ・メニュー』(2022)考察&レビュー:空腹覚悟で挑む新感覚スリラー

選ばれた者しか訪れることのできないレストラン「ホーソーン」で振舞われる有名シェフ、スローヴィクによる究極のディナー。さぞかしお腹が空く映画なんだろうと思ったら、まさかのスリラーホラー!美しく洗練されたパーフェクトなメニューに隠された秘密とは…?シチュエーションホラーの要素も含むサイコスリラー。
『ザ・メニュー』について
脚本家のウィル・トレイシーが、ノルウェーのベルゲンに新婚旅行に行った際、近くのプライベートアイランドにある高級レストランにボートで行き、食事が終わるまで島に閉じ込められている状態であることに気づき、アイデアを思いついて書かれた物語が、この『ザ・メニュー』。
実際には美味しい食事を食べた彼らであったでしょうが、ホラー脚本家の手にかかれば物語はめくるめくスリラーの世界に迷い込みます。孤島のレストランから脱出できないシチュエーションホラーの要素がありながら、料理が出されるにつれて不穏な空気が色濃くなっていくサスペンススリラーが、シュール過ぎずなぜかコミカルな雰囲気を保ちつつ進行するのは、この作品に風刺的な要素が含まれているからだと思います。
監督は、2022年度ゴールデングローブ賞3冠に輝いた『メディア王〜華麗なる一族〜』で注目のマーク・マイロッド。その他、テレビシリーズ『サクセション』や『シェイムレス』が有名。長編映画としては4本目ですが今回が代表作になるでしょう。
製作にはネットフリックス映画で2022年度アカデミーにノミネートされた『ドント・ルック・アップ』のアダム・マッケイが務めています。
いつものように映画雑誌スクリーンを読んでいた私。
そこに本作の紹介記事があったので目を通したところ、ハリーポッターのヴォルデモート役、レイフ・ファインズが主演の美味しそうな映画が公開されるという。
これは気になる!とさらに読み進めることしばらく、まさかのスリラーホラー映画というではないかっ。料理でホラーといえば、だいたいがカニバリズム。でも本作はそうでもないらしい。気になる…グルメなホラー映画でカニバじゃないってどういう内容なんだろう?
そこからしばらく、在宅映画派の私の元にディズニープラスで配信開始のお知らせ。やっときました!ってんで、さっそく鑑賞しました。(前振りが長くてすみません)
ホラー映画といえば、①ふだん生活する空間で起こる怪奇現象、②訪れたバケーション先で起こる殺人事件みたいなパターンが多いですが本作は後者。日本の南、ハワイの西側にあるという太平洋の孤島にバケーション感覚で訪れるセレブな面々。
選ばれた者だけが訪れることのできるこのレストランで、なかなか予約のとれない有名シェフの究極のディナーを食べられるというのだから心が躍らないわけがありません。
全体としてはスリラーで、次のメニューはどうなっちゃうの?と興味津々ながら、客人たちの態度やふるまいを観ていると、ある意味で現代のアートや映画界など芸術に対する一部の態度を皮肉っているような風刺要素をしっかりと感じます。
そこに投入された異分子マーゴの存在。高いからいいわけじゃない、予約がとれないからいいわけでもない、マーゴは芸術を分かったふりもしなければオタクぶって蘊蓄をたれたりもしない。見栄や自己満足のために高い料理を選んだりもしない一般的感覚の女性。
それはここに集められたゲストたちのそれとは異なることで、それが究極のディナーにどのような影響をおよぼしていくのか、が見どころでした。
そもそもの疑問を呈するなら、マーゴのような本質を見抜くセンスのある女性がなぜ薀蓄だらけのグルメオタクのタイラーと付き合ってるのかって思うんだけども、絶対にマーゴみたいな女性ならタイラー的な男って苦手な気がするんですよね…まあどうでもいい話ですがw
冒頭から、「牡蠣は生で食べたい」とか、グルメ評論家の会話に「何を大層にw」と異端分子である雰囲気を醸し出す招かざる客であるマーゴ。
一方、天才シェフスローヴィクに心酔するタイラー。そして、スローヴィクは「ただ食べないで欲しい、存分に五感で味わうべきだ」と上から目線でゲストを諭す。スローヴィクとマーゴが衝突する関係になるのはよく分かる、けど見ていると何となく通じ合ってるような気すらする不思議な関係性を感じました。
レイフ・ファウンズのすごいところは、スローヴィクを演じるにあたって単なる怖い料理バカのオヤジってだけじゃなく、料理を愛しすぎるあまり、その捻くれた性格から癇癪を起こした末路っていうふと同情を誘うような人間性を醸し出しているところ。
また、チラっとしか出演しない厨房スタッフの存在感も見事でした。そのシーンだけで、彼らがホーソンでどのように過ごし、どのような葛藤があったのかが回想できるような気すらしました。
んで料理なんですけど、庶民の私にとってはどの料理もあまりにアート的すぎて美味しそうには見えませんでしたw 食べたら美味しいのだろうけど…いや私の舌では理解できない世界かもしれませんが、それすらも風刺的な意味があるのかないのか…結局庶民なのでそこまではわかりません。
料理を出すたびに大きく手を叩いて薀蓄を言うのとかも正直うざいw 普通のレストランでも料理の説明されるのが長すぎると「はよ食べさせて」って思っちゃうタイプ。私もきっと「料理の名前を思い出してみろ」攻撃で殺されちゃうかもしれません。
不思議なのは、スローヴィクが言っていたとおり彼らはいくらでも抵抗したり逃げ出そうとできたはずなのに、本気でそれをしようとしなかった。それはどうしてだったんだろう…彼らは”本気”で生きていないのかもしれません、一方スローヴィクと対立関係にあったマーゴだけは最後に逃げ出し一人生き延びることができました。
この結末が一体何を問うているのか、私にはそこまで読み解くことができず…他の人のいろんなレビューを見て理解を深めたいと思ったところ。
厨房スタッフのトレーニング
厨房チーム全員が、実際に料理を作る訓練を受け、ステーションごとに分けて、いつ見ても、その料理に対して現実的にやるべきことをやってる、つまり料理してるんだそうです。確かに演技的ではなくリアリティのある風景に仕上がっていましたよね。
豪華なディナーのレイアウト
豪華な料理のレイアウトは、サンフランシスコにあるレストラン「アトリエ・クレン」で、米国で唯一ミシュラン3つ星を獲得した女性シェフ、ドミニク・クレン氏(2016年現在)が手がけたものだそうです。撮影の合間には、多くのキャストやクルーがその美味しさに舌鼓を打ったそうですが、その食材はあくまでも小道具。食べちゃうと撮影ができないことを念押ししなければならなかったといいます。
あんな美味しそうな料理が目の前にあるのに、空腹覚悟は観客ではなくスタッフさんたちこそだったようです(^^)
お店のギャラリーを見てると確かにホーソンで出てきそうなメニューが!そのお値段1700ドル…!!高けえww
『ザ・メニュー』概要
太平洋岸の孤島を訪れたカップルのマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)とタイラー(ニコラス・ホルト)。お目当ては、なかなか予約の取れない有名シェフ、ジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が振る舞う、極上のメニューの数々。「ちょっと感動しちゃって」と、目にも舌にも麗しい、料理の数々に涙するタイラーに対し、マーゴが感じたふとした違和感をきっかけにレストランは徐々に不穏な雰囲気に。なんと一つ一つのメニューには想定外の“サプライズ”が添えられていた…。果たして、レストランには、そして極上のコースメニューにはどんな秘密が隠されているのか?そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは…?(出典:Filmarks)
- 製作国:アメリカ
- 製作年:2022
スタッフ
- 監督:マーク・マイロッド
- 脚本:セス・リース、ウィル・トレイシー
- 製作:アダム・マッケイ、ベッツィー・コッチ、ウィル・フェレル
- 制作会社:
ハイパーオブジェクト・インダストリーズ、
ゲイリー・サンチェス・プロダクション、
TSGエンタテインメント - 配給:サーチライト・ピクチャーズ
メイン出演俳優




その他の出演俳優
- ジャネット・マクティア ― リリアン役
- ポール・アデルスタイン ― テッド役(ジャーナリスト。ウィリアムの妹。)
- ジョン・レグイザモ― 映画俳優役
- エイミー・カレロ― フェリシティー役
- リード・バーニー ーリチャード役
- ジュディス・ライトーアンネ役
- グリスティーナ・ブルカト ーキャサリン役
- ロブ・ヤン ーブライス役
- アルトゥーロ・カストロ ーソーレン役
- マーク・セント・サー ーデイヴ役
- アダム・アールダークス ージェレミー役
予告トレーラー
まとめ
そこには”死”が待っている、と分かっていても食べてみたい究極のディナーがあるのだとしたら…いつかは食べてみたい…!と思うわけがない!!ですがタイラーのように命と引き換えにしてでも口にしてみたいものがあるグルメ道みたいなのが世界にはあるのかもしれません。(ホラーのかほりがする…)
果たしてお金持ちを喜ばせるためだけに初心を忘れたアーティストが迎える最期としてこんな結末が正解なのかどうか…これもアートだと言われたら私には何も言えませんが、ゲストが辿るであろう結末を予想できながらも最後まで目が離せなかったという点では充分に素晴らしい作品であったと言わざるを得ないと思いました。
さ、チーズバーガーを食べに行ってこようっと。

Aoringoホラー研究所について
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