アカデミー最優秀作品賞にホラー映画が選ばれない理由とは?受賞作&ノミネート作品紹介
こんにちは、にわか研究員のAoringoです。
アカデミー最優秀作品賞といえば、多種多様なジャンルの作品が受賞対象となっていますが、ホラー映画やサスペンス・スリラー映画など、当研究所が対象とするジャンルの映画が受賞またはノミネートされることも、もちろんあります。
この記事では、ホラー映画やサスペンス・スリラー映画などのうち、アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞またはノミネートされたことのある作品と、なぜ同賞にホラー映画が選ばれにくいのか?についてご紹介したいと思います。
ホラー映画ど真ん中の作品は残念ながらないものの、当研究所で扱いたい素晴らしいスリラー作品がめでたくこの賞を受賞したこともあるのです。
『パラサイト 半地下の家族』(2019)
半地下の住宅に暮らす貧しいキム家が、裕福なパク家の生活に巧妙に潜り込んでいくサスペンススリラー映画。韓国における深刻な格差社会や社会評論を鋭く描き、第92回アカデミー最優秀作品賞を含む4部門を受賞、その他のアワードでも受賞し、非英語映画として世界で初めての快挙を成し遂げました。
監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク ほか
半地下(スラム街のような地域)に暮らす主人公の両親が、裕福な夫妻のことを「あの人たちは心に余裕があって優しい。金持ちはみんな余裕があって優しいのだ」と評価した後に、その余裕があるが故の優しさ、呑気で幸福な態度によって主人公たち家族の劣等感やコンプレックスをじわじわと蝕んでいく様子が緊迫感あって面白かったです。
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)
第90回アカデミー作品賞受賞した、人間ではない不思議な生き物との言葉を超えた愛を描いたダークでファンタジーなラブストーリー。アカデミーでは作品賞を含む4部門を受賞したほか、それ以外のアワードも総なめにし、ギレルモ・デル・トロの監督としての地位を揺るぎないものにしました。
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ ほか
まさにギレルモ・デル・トロ!!ってかんじで、芸術性高く、人間のいいとこ、悪いとこを余すことなく描いてました。ちょっと切ないけどとても美しく奇妙な映画です。
『アルゴ』(2012)
1979年のイラン人質危機中の実際の出来事を基にしたサスペンススリラー。アメリカ大使館から逃れ、カナダ大使の住居に避難した6人のアメリカ人を救出するための秘密作戦を描いています。
第85回アカデミー最優秀作品賞を含む3部門を受賞した、ベン・アフレック監督&主演作品。その他サターンホラー映画賞ノミネートなど各賞を受賞しました。
監督:ベン・アフレック
脚本:クリス・テリオ
出演:ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、アラン・アーキン ほか
『羊たちの沈黙』(1990)
レクター博士とクラリスの会話シーンは、彼女の過去のトラウマを引き合いに絶妙なやりとりが非常に緊迫感があり、最上のスリラーとなっています。さらに、ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンスの鬼気迫る卓越した演技、犯罪心理を探る複雑なプロットなどが高く評価され、今でもサスペンススリラー映画の代表の一つとして数えられています。
第64回アカデミー最優秀作品賞、主演男優賞、主演女優賞含む5部門を受賞、それ以外にも各アワードで受賞を総なめしました。
監督:ジョナサン・デミ
脚本:テッド・タリー
出演:ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、テッド・レヴィン ほか
レクター博士がクラリスを追い詰めていく会話のやり取り、あの緊迫感あるシーンは“目が離せない”とはこのことか、と思わせられました。
ここからは、惜しくも受賞を逃したものの、アカデミー最優秀作品賞にノミネートされたことのある、ホラー・サスペンス・スリラー作品を紹介します。
『ナイトメア・アリー』(2021)
第94回アカデミー最優秀作品賞にノミネート。豪華な出演キャストにゴシックで美しい映像のスリラー作品。1946年に発表されたウィリアム・リンジー・グレシャムの小説が基になっており、野心的な男と抜け目のない精神科医が手を組んで人々を騙し操りながら、最終的に破滅していく様子を描いています。
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、キム・モーガン
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ルーニー・マーラ ほか
ゴシック&ファンタジー贔屓なので、ギレルモ・デル・トロ監督っていうだけで期待してしまう私ですが、こちらは大人っぽいダークめな作品でした。
『ジョーカー』(2019)
第92回アカデミー最優秀作品賞にノミネートされたほか、主演のホアキン・フェニックスの主演男優賞など2部門受賞しました。バットマンに登場する悪役ジョーカーの成り立ちを独自の解釈で描くスリラードラマ。闇落ちの様子は切なくも狂気に満ちています。現代ニューヨークを、昭和80年代頃の荒廃した雰囲気にもっていき、みごとゴッサムシティに作り変えたスタッフのこだわり、執念、プロの仕事も注目。
監督:トッド・フィリップス
脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルヴァー
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、サジ・ビーツ、フランセス・コンロイ ほか
切なく悲しくじわじわと闇落ちしていく姿は思わず同情せずにはいられません。ホアキン・フェニックスの怪演は素晴らしい、必見です。
『ゲット・アウト』(2017)
アフリカ系アメリカ人の青年クリスが、白人の恋人ローズと一緒に、彼女の家族へ会いに行きますが、母親からの催眠術や洗脳、ひったくりを含む邪悪な陰謀など不穏なことが続きます。主人公は人種間の差別意識による違和感かと思いますが、事態は急速に恐ろしい方向へ進んでいくという物語。
人種やアイデンティティの問題など風刺的なアプローチを取り入れた独特な世界観のスリラー映画。この作品はサターン以外に、第90回アカデミー賞4部門ノミネート、オリジナル脚本賞受賞を含む数々の賞を受賞しました。
監督:ジョーダン・ピール
脚本:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード ほか
映画全体を包む気持ち悪ーーい感じの正体が後半につれ姿を現していくのがおもしろかったです。
『ブラック・スワン』(2010)
天才でナイーブなバレエダンサー・ニーナが、白鳥と黒鳥という二重の役割を完ぺきに演じることに取りつかれるという物語。第83回にノミネートされた他、ナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を受賞、その他のアワードでも賞賛されたスリラー映画。
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・マクラフリン
出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、ウィノナ・ライダー ほか
バレエのストイックな世界をスリラー感満載に描きながら、ナタリー・ポートマンの凄みのある演技、さらにウィノナ・ライダーも共演という豪華設定が注目です。
『第9地区』(2009)
『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが製作を担当したSF作品で、第82回アカデミー最優秀作品賞にノミネート、他アワードでも受賞。
地球外生命体が貧しい暮らしを強いられているヨハネスブルグのエリア”第9地区”を舞台に、彼等を新しいキャンプに移動させる任務を受けた役人が、ふとしたことからエイリアンに体を侵食され始め、必死に治療法を探しながら奮闘する異質なストーリー。
監督:ニール・ブロンカンプ
脚本:ニール・ブロンカンプ、テリー・タッチェル
出演:シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ミジェイソン・コープ ほか
人間vsエイリアンというありがちなSF映画ではなく、共存しながらも問題を抱える革新的なアプローチは、現代の移民問題に通ずるところもあり、なかなか考えさせられる深い作品です。
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)
スリラー映画ではないのですが、SF要素がありアカデミー視覚効果賞を受賞したのでご紹介。ブラッド・ピット演じるベンジャミン・バトンは、80歳の老人として生まれ、徐々に若返っていく、普通とは逆の時間を生きる。その人生の中で出会った女性との恋を描くSFラブストーリー。
アカデミー最優秀作品賞にノミネートの他、3部門で受賞を果たしました。
監督:ニール・ブロンカンプ
脚本:ニール・ブロンカンプ、テリー・タッチェル
出演:シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ミジェイソン・コープ ほか
年老いた特殊メイクだけでなく、ブラピとケイト・ブランシェットの若い時代を見事に再現した特殊メイクは必見。若かりし頃のケイトの美しさに言葉をなくします…。
『シックス・センス』(1999)
「絶対に結末を人に話さないでください」と話題になった、驚きのラストシーンが待つ傑作オカルトスリラー。死者と交信することができる8歳の少年コールが、恐ろしい幻影に悩まされるのを児童心理学者のマルコム・クロウが助けようとする物語です。
アカデミー最優秀作品賞にノミネートのほか、サターン最優秀ホラー映画賞を受賞しています。
監督:M・ナイト・シャマラン
脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ブルース・ウィリス、ハーレイ・ジョエル・オスメント、トニ・コレット ほか
M・ナイト・シャマラン監督の名を世に轟かせた名作。ラストシーンの衝撃だけでなく、子役ハーレイ・ジョエル・オスメント君の演技も芝らしく必見です。
『ファーゴ』(1996)
金銭的なトラブルに見舞われたセールスマンの男が、身代金目当てで裕福な家の妻の誘拐を依頼するという物語。ブラックユーモアと、風変わりなキャラクターが印象的な作品です。
アカデミー最優秀作品賞にノミネートのほか、脚本賞、主演女優賞を受賞、その他多数アワード受賞をしました。
監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、スティーヴ・ブシェミ、ウィリアム・H・メイシー ほか
『危険な情事』(1987)
マイケル・ダグラス主演のサイコホラー。NYの弁護士ダンは、編集者アレックスとの不倫関係を終わらせようとするが、それを彼女が許さずストーキングされるという話。アレックスの行動が徐々にエスカレートしていく様子がとても恐ろしく、本作は当時商業的にも批評的にも成功しました。
監督:エイドリアン・ライン
脚本:ジェームズ・ディアデン
出演:マイケル・ダグラス、グレン・クローズ、アン・アーチャー ほか
『ジョーズ』(1975)
スティーブン・スピルバーグの名を世に知らしめた代表作の一つ。ジョン・ウイリアムズによる音楽も印象的で有名。自然の生き物が人間の脅威となるスリラー映画の古典の一つとされています。第48回アカデミー最優秀作品賞にノミネートされました。
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ピーター・ベンチリー、カール・ゴットリーブ
出演:ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファス ほか
『タワーリング・インフェルノ』(1974)
サンフランシスコの巨大なタワーのオープニングセレモニーが大火災に見舞われるというパニック映画。スリリングなアクションや特殊効果、高層ビルの火災や建築上の過失による恐怖を描いています。第47回アカデミー最優秀作品賞にノミネートされました。
監督:ジョン・ギラーミン、アーウィン・アレン
脚本:スターリング・シリファント
出演:スティーヴ・マックィーン、ポール・ニューマン、ウィリアム・ホールデン ほか
『エクソシスト』(1973)
W・P・ブラッティの同名ベストセラー小説をもとに、少女に取り憑いた悪魔と神父との闘いを「フレンチ・コネクション」のW・フリードキン監督が鮮烈に描写。悪魔のせいで様子が豹変し、すさまじい形相で冒涜的なせりふを連発する少女役、L・ブレアの姿が一躍論議を呼び、世界中に一大オカルトブームを巻き起こしました。第46回アカデミー最優秀作品賞にノミネートされたほか、2部門で受賞しています。
監督:ウィリアム・フリードキン
脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
出演:エレン・バースティン、マックス・フォン・シドー、リー・J・コッブ、ジェイソン・ミラー、リンダ・ブレア ほか
『白い恐怖』(1945)
アルフレッド・ヒッチコックによるサイコスリラー映画。精神科医のコンスタンスは、精神病院にやってきた新しい院長のアンソニーと恋愛関係になりますが、彼は実は詐欺師である殺人事件に関与していること可能性があることが判明する、という物語。第18回アカデミー最優秀作品賞にノミネートされたほか、作曲賞を受賞しました。
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ベン・ヘクト、アンガス・マクファイル
出演:イングリッド・バーグマン、グレゴリー・ペック ほか
まとめ
以上、アカデミー最優秀作品賞を受賞またはノミネートしたことのある、ホラー・スリラー・サスペンス系の映画をまとめてみました。やはり皆さんご存じであろう有名な作品が多く並びましたね。
1927年から今日までずっと続いているアカデミー最優秀作品賞ですが、ホラー映画やサスペンス映画が受賞したりノミネートされることは、残念ながら多くないのが実際のところです。
これまで受賞したことのある作品は、ご紹介した通り、『パラサイト 半地下の家族』、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『アルゴ』、『羊たちの沈黙』の4作品。しかし、いずれもホラー映画ジャンルど真ん中ではないのが実情。
なぜ、ホラー映画はアカデミー最優秀作品賞に選ばれないのか?
なぜ、アカデミー最優秀作品賞にホラー映画は選ばれないのか?その理由についてざっとですが調べてみたところ、理由はアカデミー賞の投票者層によるものだそうです。彼らは、深い社会的・人間の心理的テーマを扱うことが多いドラマや歴史映画のようなジャンルを好む傾向が強く、これらのジャンルは映画の中でも”高尚”であると見做されているそうです。
一方、ホラーやスリラー映画は、商業的娯楽として扱われることが多く、芸術性や深いメッセージを伝える手段としては残念ながら評価されにくいといった傾向があるんだそうです。
しかし、ホラー映画も多様化してきた昨今では、『ゲット・アウト』のような社会的テーマを反映させたスリラー映画が高く評価される風土も整いつつあります。今後はホラー映画がアカデミー最優秀作品賞に選ばれる日が来るかもしれませんよね!
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